第17回 齋藤秀雄メモリアル基金賞
2019年2月5日 東京にて行われた贈賞式
左より 加藤 優(当財団理事長)、東条 碩夫氏、堤 剛氏、伊藤 悠貴氏、長木 誠司氏、軽部 重信(当財団専務理事)
公益財団法人ソニー音楽財団(所在地:東京都千代田区、理事長:加藤 優、英文名称:Sony Music Foundation)は、第17回(2018年度) 齋藤秀雄メモリアル基金賞 チェロ部門受賞者を伊藤 悠貴(いとう・ゆうき)氏に決定いたしました。
尚、指揮者については今回該当者はおりません。
- 受賞者
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伊藤 悠貴(チェロ)
- 選考委員
<永久選考委員>
小澤征爾 氏(指揮者)
堤 剛 氏(チェリスト)<任期制選考委員(3年)>
長木 誠司 氏(音楽学者・音楽評論家)
東条 碩夫 氏(音楽評論家)
吉田 純子 氏(朝日新聞文化くらし報道部次長)- 賞
●楯
●賞金 当該年毎に1人500万円(総額1,000万円)
贈賞の言葉
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伊藤 悠貴 氏へ「贈賞にあたって」
齋藤秀雄メモリアル基金賞 選考委員 堤 剛伊藤さん、この度は本当におめでとう御座います!この賞に相応しい立派なチェリスト/アーティストだ、と選考委員一同強く推薦させて頂きました。
伊藤さんのチェロ演奏の魅力は何と言っても彼が造り上げる「音」そのものにあると思います。その色彩の多様さ、ダイナミズムとしての音、そして聴く者を惹きつけて止まない本質的な美しさが其処にあります。ラフマニノフの演奏にそれが如実に現れており、伊藤さんがラフマニノフを得意とされる理由も良く解ります。そして英国で学ばれた事もあって英国人作曲家の作品とも積極的に取り組まれ、新しい境地を切り拓いて行くパイオニア的な精神を持ってその啓蒙に務められていらっしゃいます。中でもF.ブリッジの作品の解釈に抜きん出たものがあるように私は思います。加えてスタンダードレパートリーとされている作品も完全に手中に入れられ、プログラム内容が豊富で密であり、同時に独特の自由さを持った演奏で国際的に活躍されていらっしゃいます。
ロンドンを本拠地に活動されておられる故か、演奏を含め様々な面で私達に今までに無いオープンで新しい視点、考え方を提示して呉れますし、伊藤さんの演奏活動全般に対する積極的な姿勢には常常感服致しております。それがまた指揮活動とかラジオ局のパーソナリティーという分野でも成功を収められている理由かとも思います。簡単に言いますとフレキシビリティーとかダイヴァーシティーに富んでおり、秀でているという事になるのではないでしょうか。本当に頼もしい限りです。
伊藤さんは人間的にもとても幅広く、音楽だけでなく、全ての面でコスモポリタンな発想をされる方です。若い頃から素晴らしい先生方に恵まれ着実に成長されて来られましたが、其処には様々な苦労や困難もあり、大変な努力と休む事ない精進と研鑽でそれを乗り越えてこられたからこそ、今の姿がある事に疑いの余地がありません。でもそのような苦労などは微塵も感じさせず、演奏をされる時は全てをそれに打ち込み、音楽そのものと一体となっている彼の芸術性は、今後ますます磨かれていってその力を存分に発揮し、真の意味でのインターナショナルアーティストになられる事と確信致しております。
今後は此れまで培ってこられたものを後進の指導にも向けて下さいましたら、偉大な教育者であられた齋藤秀雄先生のレガシーを引き継いで行って頂けるのではないでしょうか。そしてそれによってこの賞の持つ意義がますますはっきりして来ると思います。伊藤さんのさらなるご活躍を期待して私からのお祝いのメッセージとさせて頂きます。
受賞の言葉
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伊藤 悠貴(チェロ)
【受賞の言葉】
この度は名誉ある「齋藤秀雄メモリアル基金賞」を受賞させていただくことになり、賞を与えてくださった小澤征爾先生、堤剛先生、選考委員の先生方、ソニー音楽財団の皆さまに心からの感謝を申し上げます。
20代の最後にこのような大きな賞をいただき、30代に向けて一層身の引き締まる思いです。
私は直接齋藤秀雄先生の教えを受けることは叶いませんでしたが、最初に手ほどきを受けた故山川郁子先生、そして恩師倉田澄子先生から、「基礎は100%完璧でなければならない」、また何よりも「心で歌う」という齋藤先生の教えを受け継ぎました。 また室内楽勉強会で小澤先生から室内楽の重要さ、面白さを学び、マスタークラスでは堤先生にご指導をいただく機会もあり、今振り返ると、私の学んで来た道にはいつも齋藤先生の偉大な教えがありました。 プロのチェリストになると決心した10代半ば以降、英国で練習に励む傍ら、自分が極めるべき道、すべきことは何かを考えてきました。 その過程で、ラフマニノフの音楽が自分にとって最も聴衆とコミュニケートしたい特別なものとなり、ゲリンガス先生やボヤルスキー先生からロシア音楽の底に流れる情念や作曲家自身の言葉などについて深く学びました。今では、これまでになかった新しい「ラフマニノフ音楽のスペシャリスト」としてラフマニノフ作品の研究を続けてゆくことを、自分の演奏活動の一つの核にしたいと思っています。また、これまで人生の半分ずつを過ごした日本と英国の文化的架け橋を目指して、英国のチェロ作品の素晴らしさを日本で広めることも大切にしたいと考えます。
数年前からチェリストとしてだけではなく指揮者としての道も探究し活動していますが、これからも分野に囚われず、私が「音楽人」としてできること全てに挑戦し続けたいと思います。 ご指導いただいた先生方、演奏を聴いてくださる全ての方、共演者、所属事務所、後援会、発信拠点のラジオ局、名器を貸与してくださった方、関係者の皆さま、そしていつも支えてくれる家族や大切な人、友人、本当に多くの方々のおかげで演奏活動ができていることを改めて思い、感謝の気持ちで一杯です。
AI、IoTの普及など世の中は激しく変化していますが、こうした時こそ小澤先生が仰ってこられた「共生感」が社会で強く求められるのだろうと思います。クラシック音楽はこれからの社会に何ができるのか、我々若手の責任は大変重いですが、また多くの可能性があると感じます。
ご指導をいただきながら、万里一空の努力を重ねて参ります。
プロフィール
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伊藤 悠貴(チェロ)
1989年東京出身、15歳からロンドン在住。2006年ヤニグロ国際チェロ・コンクール優勝、2010年ブラームス国際コンクール優勝、2011年英国の最高峰・ウィンザー祝祭国際弦楽コンクール優勝。
V.アシュケナージ、小澤征爾、小林研一郎、大友直人、山下一史らをはじめ、フィルハーモニア管弦楽団、クラーゲンフルト歌劇場管弦楽団、オザワ祝典アンサンブル(サイトウ・キネン・オーケストラ/水戸室内管弦楽団メンバー)、読売日本交響楽団、東京交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、群馬交響楽団などと共演。
バロックから現代まで幅広いレパートリーの中でもとりわけラフマニノフ作品の演奏・研究をライフワークとし、ロンドンの殿堂ウィグモア・ホール、および東京・紀尾井ホールにて史上初となるオール・ラフマニノフ・プログラムによるチェロ・リサイタルを開催、またデビュー盤「ラフマニノフ:チェロ作品全集」はストラッド誌特選盤を受賞するなど、ラフマニノフ弾きとしての国際的な評価を得ている。他にも英国王室御前演奏、ウィンザー城、ロイヤル・フェスティバル・ホール、パリ・マリニー劇場、ローマ・マルケッルス劇場、ザルツブルク・ミラベル宮殿など各国主要ホールでリサイタルを開催し、英国のチェロ作品を日本各地で広める活動にも注力。2016年にはNHKテレビ公開収録「宮沢賢治生誕120年記念リサイタル」に出演、その模様は3年間に渡って全世界に放映され、100年記念にはヨーヨー・マが行った大役を担った。
最新アルバム「ザ・ロマンティック」はレコード芸術誌特選盤受賞。
指揮者としてナイツブリッジ管弦楽団(英)芸術監督を務めるほか、カポソカ交響楽団(アンゴラ)、桐朋・芸大生による東京庭オーケストラなどを指揮。
英BBC、NHKをはじめ各国のテレビ、ラジオ番組への出演、クラシック音楽ラジオ局OTTAVA「伊藤悠貴The Romantic」のパーソナリティも務めるなど、活動は多岐に渡る。
英国王立音楽大学首席卒業。倉田澄子、A.ボヤルスキー、D.ゲリンガス各氏に師事。小澤国際室内楽アカデミー生。文化庁海外派遣研修員。ローム財団奨学生。
使用楽器は日本ヴァイオリンより貸与された1734年製ゴフリラー。