第11回 齋藤秀雄メモリアル基金賞
2012年12月25日 東京にて行われた贈賞式
左より中鉢 良治(当財団理事長)、小澤 征爾、堤 剛、石坂 団十郎、山田 和樹、岡 路子(当財団常務理事)の各氏
公益財団法人ソニー音楽財団(英文名称:Sony Music Foundation)[理事長:中鉢良治]は、2002年(平成14年)に、若手チェリスト、指揮者を顕彰すべく「齋藤秀雄メモリアル基金賞」を創設しました。
この度、選考委員会において審議の結果、第11回 齋藤秀雄メモリアル基金賞 指揮部門受賞者は山田 和樹(やまだ・かずき)氏、チェロ部門受賞者は石坂 団十郎(いしざか・だんじゅうろう)氏に決定、12月25日、都内にて贈賞式が執り行われました。
- 受賞者
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石坂 団十郎(チェロ)
山田 和樹(指揮) - 選考委員
<永久選考委員>
小澤征爾 氏(指揮者)
堤 剛 氏(チェリスト)<任期制選考委員(3年)>
諸石幸生 氏(音楽評論家)
寺西基之 氏(音楽評論家)
梅津時比古 氏(毎日新聞社学芸部専門編集委員)- 賞
●楯
●賞金 当該年毎に1人500万円(総額1,000万円)
贈賞の言葉
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石坂 団十郎氏への贈賞にあたり
堤 剛私が石坂さんの演奏を最初に聞いたのはドイツのフランクフルト郊外にあるクロンベルグ・アカデミーでした。私のマスタークラスに参加されていたのですが、若い年齢にも関わらず端正でとても整った演奏をされていたのを思い出します。ドイツ人なのに「団十郎」という名前にびっくりしたのも確かですが!その次に聞いたのは大阪国際室内楽コンクールでした。その時は「イシザカ・トリオ」という名でピアノ・トリオの部門に参加されておられました。お姉様がピアノ、お兄様がヴァイオリンという所謂ファミリー・アンサンブルでしたが、兄弟仲がとても良くお互いに励まし合いながら成長されて来たのだな、という事が良く解りました。
ベルリンのハンス・アイスラー芸術大学でペルガメンチコフ教授に師事され目覚しい成長振りを発揮されました。ペルガメンチコフ氏はご自身素晴らしいチェリストで国際的な演奏活動をされた方ですが、名教授としての評判が高く、その門からは優秀な人材が多数輩出しております。人間的にも暖かく人望があった氏が特に目をかけられたのが石坂さんでした。比類の無い綿密で方向性がしっかりした教育法で、テクニックのみならず音楽的にもセンスが大変良く優れていて、本当に完璧と言ってよい教育をされました。それに良く応え見事に体現されているのが現在の石坂さんだと思います。
石坂さんは、私からみてもパーフェクトなチェリスト、人間なのですが、これからも大きく成長されて、芸術のため、音楽のため、人類のために頑張ってくださると思います。また、齋藤秀雄先生が持ち続けていた大きな夢を実現してくださる、力、能力、才能、音楽性を持った素晴らしい方です。
数々のコンクールで優勝され立派なキャリアを積んでこられている石坂さんですが、その演奏は真に切れ味が良く、深く豊かな音楽性に富み、何でも自由自在に弾けてしまうテクニックに裏打ちされていて、聴く者を本物の音楽作りの世界に導いて呉れます。しかもその活動もソリストとしてのそれに留まらず、室内楽の面でもとても充実した演奏活動をされています。加えて最近はドレスデンでの教授活動をも始められたとかで、八面六臂の活躍とはこのような事を指しているのだと思います。日本音楽財団より「アイレスフォード・ストラディヴァリウス」という名器を貸与され使用されておりますが、奇しくもこのチェロは私の師J.シュタルケル氏が以前使用されていた楽器です。
この栄誉ある賞に真に相応しい受賞者であり、今後のますますのご活躍、そして芸術家として大成される事を祈念致しております。
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山田 和樹氏への贈賞にあたり
小澤 征爾山田君、齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞、おめでとうございます。
2009年の9月、私のマネージャーのヴォニー・サルファッティが持ってきてくれたブザンソン・コンクールのヴィデオで、初めてあなたのことを知りました。その時、これはすごい才能だと思いました。
あなたはその後、私が主宰するSeiji Ozawa International Academy Switzerlandや、サイトウ・キネンを助けてくれました。
特に今年は、サイトウ・キネンで、オネゲルの「火刑台上のジャンヌ・ダルク」を私に替わって見事に指揮してくれました。このプロダクションは、あなたが指揮する初めてのオペラだったのですね。
ここで、既にとても忙しくなった山田君へ、私からの忠告を申し上げたいと思います。
忠告と言っても、実はこれは私の先生であるカラヤン先生、そして、私の一生のマネージャーであるウィルフォードさんが、駆け出し頃の私にしてくれた忠告なのですが、
一、 常に、自分が勉強できる時間を確保すること。
一、 来た仕事の中で、一番自分に相応しい仕事を選ぶこと。
これをいつも頭の中に置いておいてもらいたい。
そして、これは本当に私自身からの忠告、
一、 いつも、素晴らしい音楽家と仕事をすること。(これが一番大事)
一、 可能なら、持続的にじっくり腰を据えてオーケストラと生きる音楽の生活をすること。つまり、音楽監督の仕事をやること。
とても難しいことですが、この2つを両立させることが大きな秘訣だと、私は信じています。私はアマチュアのコーラスを指揮したりもしていましたが、経験が大事なのか、高い水準の音楽家と仕事をするのが大事なのか。本当の答えはわからないけれど、私もそういうことを考えながら活動していたということを思って、これからも進んでもらいたいと思います。
是非このことを肝に銘じて、そしてこんなことを私が言うのも変かもしれませんが、身体に気をつけてください。
おめでとう。
受賞の言葉
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石坂 団十郎(チェロ)
このたびソニー音楽財団から『齋藤秀雄メモリアル基金賞』をいただくことになり、心からお礼を申し上げます。このように栄誉ある賞をいただくことは、とてもうれしく、そして光栄に思います。
この受賞にあたり、私の師である故ペルガメンシコフ先生をはじめ、これまで私を育て、支えてくださった多くの方々一人一人に感謝の念を伝えたいと思います。この力添えがなければ、今日の私はなかったと思うからです。
クラシック音楽は西欧で生まれ育まれてきました。西欧とは文化的に同じルーツを持たない日本で、クラシック音楽が受け入れられ、敬意をもって受容されていることに西欧の人たちは驚異の念を抱いています。この日本での受容には齋藤秀雄先生をはじめ、多くの秀でた音楽家、音楽関係者、支援者のご努力があったからだと思います。
私は、日本に来ると何かほっとします。食べ物がおいしいということもありますが、日本の人たちの優しさときめ細やかさは格別です。音楽に対する愛情の深さとリスペクトは、演奏者の私にも伝わってきます。聞いている人の集中力も格別です。いつもその手ごたえを胸にドイツに帰り、次に日本で演奏することを楽しみに、毎日音楽と向き合っています。そして、もっと多くの人たちに音楽を届けたい、音楽の喜びと幸せをみなさんと分かち合いたいと思います。
齋藤先生から私は直接教えてはいただいていません。しかし先生が日本での音楽教育やその受容に大きな貢献をされたことはたびたび聞いていました。また、とくに齋藤先生がチェロ奏者であったこと、ドイツに留学しフォイアーマンに師事されたことなど、私にはとても身近に感じることでした。
そして齋藤先生が室内楽の重要さを説かれていたことは、私を強く力づけてくれました。チェロという楽器は室内楽には欠かせません。チェロ奏者はまず室内楽で音楽そのものを学びます。ですから室内楽を音楽の重要な基本だと考えられた齋藤先生の名前を冠した賞をいただくことは、チェリストとして大きな栄誉であり喜びです。
世界はいま大きな転換点に立っていると思います。環境破壊、災害の被害規模ははかりしれないほど大きくなり、また世界経済の複雑さを合わせ、私たちに将来の不安を増大しています。
このような時代に、私は音楽家として何ができるかを考えさせられています。音楽とは何か、文化・芸術とは何かを、この機会に改めて見つめ直し、問いただし、新しい責任と使命をもって、さらに勉強、努力し、多くの方々の心に訴える音楽をお届けしたいと願っています。 -
山田 和樹(指揮)
このたび、齋藤秀雄先生のお名前を冠した賞をいただけること、心より嬉しく思っています。指揮者は一人では音を出せません。皆様の応援があってのことなので、本当にお礼を申し上げたいと思います。また、齋藤先生のメソードとは違う形で指揮を勉強してきました自分が受賞させていただくことは、恐縮の極みです。この賞をいただいたことで、石坂さんや素晴らしい方々との新しい出会いを下さり、音楽と人間が結びついていると実感しました。
今や指揮者を志す人であれば、国籍を問わず誰もが熟読している『指揮法教程』。自分も高校生の頃に買い求め、勉強しようとしたのですが、当時の自分にはその凝縮した洗練された内容を理解する力が足りていませんでした。自分の世代ではこの『指揮法教程』の本を通じてしか、齋藤秀雄先生の人となりを想像することが出来なかったのですが、後に齋藤先生が日本フィルを指揮している映像を観た時のショックは凄まじいものでした。指揮の技法を超えたところにある、溢れんばかりの「音楽」。紡ぎ出されている音は、齋藤先生の身体の一部のような血潮を感じさせるものでした。そこで自分の誤解に気付いたのです。それまでは、「齋藤メソード=テクニック」というイメージが先行していたのですが、その根底にあったのは、溢れるばかりの「音楽」であり、またそれに対する情熱・愛情だったのです。
併せて、 中丸美繪さんの名著『嬉遊曲、鳴りやまず─齋藤秀雄の生涯』を読んで深い感動を覚えました。先生が晩年に、「音楽のために死ぬのはこわくない」と仰るくだりでは、涙があふれてきました。
実際に齋藤先生にお目にかかることの出来なかった世代ではありますが、こうした先生の音楽に対する勇気、情熱、愛情を自分たちも受け継いで、また次の世代に伝えていかなくてはならないのではないかと思っています。今回、当賞をいただくことで、その意を新たにしているところです。
小澤征爾先生、堤剛先生、選考委員の先生方、ソニー音楽財団の皆様をはじめ、日頃から応援していただいております全ての方々に御礼申し上げます。
プロフィール
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石坂 団十郎(チェロ)
ドイツのボンで1979年に生まれる。父親は日本人、母親はドイツ人のピアノ教師で、幼少時から姉はピアノ、兄はヴァイオリンのレッスンを受けており、末っ子の団十郎は4歳で最初のチェロのレッスンを受ける。また幼少期から姉兄と室内楽に親しんでいた。
その後ケルン音楽大学のシュヴァイケルト教授、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学でボリス・ペルガメンシコフ教授等に師事した。
1998年にはカサド、1999年にはルトスワフスキー、2001年にはミュンヘン、2002年にはベルリンのフォイアーマン・グランプリの各国際コンクールで優勝し、2003年にはヤング・アーティスト・オヴ・ザ・イヤー賞受賞する。2006年にはSony ClassicalからデビューCD(ピアノ:マーティン・ヘルムヘン)をリリースし、このCDはドイツ・フォノアカデミーのエコー・クラシック新進演奏家賞を受賞する。同年英国BBC放送協会の新進音楽家支援プログラムのアーティストに選出される。
2004年NHK交響楽団と共演して日本デビューし、日本ではこれまでNHK交響楽団のほか、東京交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団と共演している。
またムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ、ロジャー・ノリントン、ゲルト・アルブレヒト、イルジ・コウト、クリストフ・エッシェンバッハ、ミハイル・ユロフスキー、アンドリュー・デーヴィス、レナード・スラットキン、クシシトフ・ペンデレツキ等の指揮者、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、ベルリン、ミュンヘン等の放送交響楽団、ウィーン交響楽団、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、マリインスキー劇場交響楽団等、ヨーロッパの多くのオーケストラと共演している。
室内楽ではギドン・クレーメル、リサ・バティアシュヴィリ、ヴィヴィアン・ハーグナー、ユリア・フィッシャー、アントワン・タメスティ、ルノー・キャプソン、タベア・ツィンマーマン、シャロン・カム、ラルス・フォークト等と共演している。
デュオのパートナーのピアニストとしては、ホセ・ガラード、マルクス・シルマー、マーティン・ヘルムヘン等の名をあげられる。
2010年、水戸芸術館館長・故吉田秀和氏の命名により、同館の専属楽団として結成された「新ダヴィッド同盟」のメンバー(ほかに庄司紗矢香、佐藤俊介、小菅優ら)となる。
2011年5月ドレスデン音楽大学教授に指名され、同年10月からは演奏活動に並行して後進の指導にもあたっている。
使用楽器は、日本音楽財団貸与のストラディヴァリウス1696年制作の“ロード・アイレスフォード”、ならびにクロンベルク・アカデミー貸与のW・シュナーベル1997年制作チェロ。石坂団十郎ホームページ:http://danjulo-ishizaka.com/
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山田 和樹(指揮)
1979年、神奈川県生まれ。幼少の頃より木下式音感教育を受ける。2001年、東京藝術大学指揮科卒業。指揮法を松尾葉子・小林研一郎の両氏に師事。在学中、芸大生有志オーケストラ(現在の横浜シンフォニエッタ)を結成し、ベートーヴェン交響曲全曲演奏を行う。
2009年、第51回ブザンソン国際指揮者コンクールに優勝、併せて聴衆賞も獲得。ただちにモントルー=ヴェヴェイ音楽祭にてBBC交響楽団を指揮してヨーロッパデビュー。同年、ミシェル・プラッソンの代役でパリ管弦楽団を指揮、すぐに再演が決定する。
これまでに、NHK交響楽団、サイトウキネンオーケストラをはじめ、日本国内主要オーケストラ、BBC交響楽団、バーミンガム市交響楽団、イギリス室内管弦楽団、パリ管弦楽団、イル・ド・フランス国立管弦楽団、ルーアン歌劇場管弦楽団、ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団、モンテカルロ・フィルハーモニー、スイス・ロマンド管弦楽団、ローザンヌ室内管弦楽団、ベルリン放送交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送交響楽団、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、ワイマール歌劇場管弦楽団、プラハ交響楽団、マルメ交響楽団、シンフォニア・ヴァルソヴィア、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、などへ客演。また、バート・キッシンゲン音楽祭、モンペリエ音楽祭、マントン音楽祭、ブザンソン国際音楽祭、ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭など、音楽祭への出演も多数。
共演したソリストには、ヴァディム・レーピン、イザベル・ファウスト、バイバ・スクリーデ、ジェームス・エーネス、堀米ゆず子、諏訪内晶子、庄司紗矢香、今井信子、タチアナ・ヴァシリエヴァ、ボリス・ベレゾフスキー、シプリアン・カツァリス、ブルーノ・リグット、ジャン=フレデリック・ヌーブルジェ、ジャン=イヴ・ティボーデ、ファジル・サイ、小山実稚恵、小菅優、横山幸雄、山下洋輔などが挙げられる。2010年9月より2012年8月までNHK交響楽団副指揮者。現在、横浜シンフォニエッタ音楽監督、オーケストラ・アンサンブル金沢ミュージック・パートナー、東京混声合唱団レジデンシャル・コンダクター。ベルリン在住。第21回出光音楽賞、第20回渡邊暁雄音楽基金・音楽賞を受賞。
今後、フィルハーモニア管弦楽団、BBCフィルハーモニック管弦楽団、トゥールーズ・キャピトール国立管弦楽団、パリ室内管弦楽団、ケルン放送交響楽団、エッセン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団、エーテボリ交響楽団などへの客演が決定している。また2013年12月にはウィーン・デビュー(ウィーン・トーンキュストラー管弦楽団)が予定されている。2012年9月より、スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、仙台フィルハーモニー管弦楽団ミュージック・パートナーに就任した。